米国のローンに関して、審査基準と金利に「個人の信用力」が挙げられる。米国だけでなく日本でも「個人の信用力」が存在し、水面下でスコア化されている。
国内にある外資系GEコンシューマー・ファイナンス株式会社(現「新生フィナンシャル」)は「個人の信用力」の一つとしてTOEICの点数で金利を優遇していた時期があった。
米国にある日本の車メーカーも20年以上前になるが、アフリカ系アメリカ人のカーローン金利と白人の金利に大きな差があることで『NYタイムズ』が報じていた。
この「個人の信用力」が高いと↑≒金利が低く↓、信用力が低い↓と≒金利が高い↑という図式が成り立っている。しかしながら、今だここ米国に至っては、住宅ローン審査に「人種」も個人の信用力となっているような統計がある。
画像出典:Note: *Nonconventional loans are those insured by the FHA, or backed by guaratees from the VA, FSA and RHS.Chart: Annie Fu/Insider Source: Data Point: 2019 Mortgage Market Activity and Trends, Consumer Financial Protection Bureau
左図は30年住宅ローン利率、右図は人種別住宅ローン申請の審査落ちの推移を人種毎に表している。オレンジ色がアフリカ系で住宅ローン審査が一番厳しい人種であることが図からわかる。次いで水色のヒスパニック系、紫色のアジア系は人種の中では恵まれており、白人に次いで比較的住宅ローン審査に通りやすい傾向がうかがえる。
アフリカ系アメリカ人の住宅ローン審査に落ちる割合は白人の2倍以上である。これだけで人種差別につながると単純に言えないと思うが厳しい数字である。
HUD(米国住宅都市開発省)によると、住宅の販売や賃貸に関して「人種や肌の色などを理由に各種異なる条件・基準を設けることは違法な差別である」とし、禁じている。
他方、全体世帯資産に関して白人とアフリカ系アメリカ人の推移を見ていくと、1990年前後の統計ではすでに10倍前後の開きがあった。
それから30年後の現在、白人とアフリカ系アメリカ人との差は約16倍まで広がった。賃金ではアフリカ系アメリカ人は約3分の2、教育もが白人の約3分の2の進学率である。失業率もアフリカ系アメリカ人は白人より高い。アメリカ社会に根ずく世帯資産や賃金に人種の差がいまだ大きく存在し、経済格差がますます顕著になっている。
アフリカ系アメリカ人が白人と同等の経済水準に達するには228年かかると『Institute for Policy Studies』は伝えている。228年は米国がアフリカ系に対して合法的に奴隷制度が開始・禁止された1640年代から1865年よりも長い時間を要するようだ。
失業率一つとっても興味深い図を紹介したい。
ジェトロとFREDの米国失業率を見ていると、2020年4月時点でジェトロは14.7%、FREDはアフリカ系16.6%、ヒスパニック・ラテン系18.8%、アジア系14.5%、白人14.1%である。これらを足して4で割っても16%になり、14.7%にはならない。
ジェトロの数字だけ見ると失業率が高いヒスパニック・ラテン系とアフリカ系や含まれていない数字のように筆者は見える。
各人種の失業率と住宅ローン申請状況を見るに、失業率が高い人種ほど、住宅ローン審査の厳しさが比例しているのがわかる。失業率の高いアフリカ系アメリカ人が住宅ローンを申し込んでも、審査基準が白人と比べて厳しくなるのは至極当然である。
ただし、「個人の信用力」が白人とアフリカ系アメリカ人が同じで、金利が異なるのは差別と言えるのかもしれない。
10年以上前に「個人の信用力」が同等なのに住宅ローンの金利を白人の3倍ちかくにしていたとしてバンクオブアメリカが訴えられている。これが「サブプライムローン」であり、高金利でローンが支払えなくなった「個人の信用力」が低いアフリカ系アメリカ人を中心に経済破綻し、経済問題へつながった。
この「個人の信用力」は住宅ローン金利だけでなく、雇用にも影響を与えていたようだ。雇い主が求職者の「個人の信用力」をチェックし、採用不採用を決める慣例があったようだ。「個人の信用力」が雇用に影響を与えることがないようNY市は禁止している。
「個人の信用力」の格差がそのまま経済格差につながり、人種の差別にもつながっていると考えると「個人の信用力」自体の改革が必要だが、この「個人の信用力」は、グリーンカードにもつながっているため、根本的に改革をするならスコアの定義も見直さないといけない。
数字化と合理化でシステマテックしてきた移民国家米国で、白人とそれ以外の人種の隔たりは縮まっているのだろうか。225年も続いた奴隷制度が禁止されて158年目を迎えた2023年、各種数字だけ見ると隔たりは大きくなっているように見える。